忘れられないこと

今から50年も前の話


それは高校の日本史の授業でのこと。


「教科書にそって説明するから、教科書を開いて!」と先生が言った。


私はその日教科書を持って行っておらず困ったが、見ている振りをして下を向いてやり過ごせば大丈夫と思っていた。


しかしその時、私の机の上に隣のO君が自分の教科書を差し出してきたのだ。
直後「O君! 教科書はどうしたのですか?」と先生の声・・・
「忘れました。すみません」と間髪入れず答えたO君。


心臓バクバクで「忘れたのは私です」という言葉がどうしても声にできず、結局最後まで無言だった情けない私。


O君に対する申し訳なさと自分への不甲斐なさは、その後私の心に鉛のように鎮座し続けた。


※※※※※※


我が家が今の場所に土地を求め家を建てたのは30年前のこと。


何とO君宅が目と鼻の先にあった。


今はご近所さんとして良いお付き合いが続いている。


町内会の行事やゴミ出しの時に顔を合わせるとO君は「おっ!元気か!」と声をかけてくる。老眼鏡をかけ、ちょっと丸くなった背中、膝が痛いと笑う。


ーO君は50年前の日本史の授業のこと覚えているかなあー

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