大切な過去・・記憶にございません

銀行のATMから出たところで、初老の男性から突然声を掛けられた。


「〇〇さんではないですか?」
「はい〇〇ですが・・・」


「私はA子の父親です。あの時は大変お世話になりました。」


A子?・・・・私の記憶の引き出しをあちこち引っぱり出してみるが、A子という名前は記憶の中にはないのだけれど・・・


焦って困っている私に、その方は話された。


今から20年以上前、私が児童養護施設で働いていた頃のことを。

施設の新事業として、当時としてははまだ珍しかった不登校児のためのフリースペースを開設し、数名の子を受け入れていた。


そこへ通って来ていた中の一人がA子ちゃんだった。


「あ~、あのA子ちゃん!」やっと少しだけ思い出せた。


ただ、申し訳ないけれど、私の記憶の中にA子ちゃんの印象はほとんど残っていない。


A子ちゃんとどんな風に関わったのか、何をどうしたのかさっぱり思い出せない。


A子ちゃんのお父さんにとってのあの日々は、不登校になった娘さんのことで深く悩み、懸命に寄り添って過ごされた愛おしく大切な時間。


あれから20年以上も経った今、
「一度お目にかかってお礼が言いたかった」と、丁寧な感謝の言葉をいただいた。


「20年前の私のことを覚えていて下さり、声をかけていただいてありがとうございます」
とお礼を言って別れた後、海馬から零れ落ちて忘却の彼方へ消え去った私の記憶のことを考え、情けない気持ちになった。


大切にしなければいけなかったこと・・

忘れてはいけなかったこと・・

私にはたくさんあるんだろうなぁ


そんなことを思わせてくれた今日の出来事。

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